日本国内のみならず、海外にもファンが多いグラフィックデザイナーの横尾忠則氏。
そんな横尾忠則のポスター画を使った御朱印帳が来春頒布される計画があると聞き、頒布元の埼玉県川口市の鎮守 氷川神社の権禰宜・鈴木智之氏にお話を伺ってきた。
鎮守 氷川神社の特徴的な御朱印と御朱印帳
鎮守 氷川神社は、都心のベッドタウンとして知られる埼玉県川口市にある神社。氷川神社というと、同じく埼玉県にある武蔵の国一ノ宮の大宮氷川神社が有名だが、埼玉県内には氷川神社と名のつく神社がなんと300社あるという。この鎮守 氷川神社もそうした300社のうちの一社になる。
鎮守氷川神社の御朱印。青の押し印は夏季、赤は秋季限定で授与している
すべての氷川神社でスサノオノミコトを御祭神として祀っているが、鎮守 氷川神社で頒布中の御朱印帳には剣を携えたスサノオノミコトの勇ましげなシルエットが描かれている。また、御朱印にも四季に合わせて色を変えるスサノオノミコトの押し印がある。
そして、社名に使われている独特の書体は、鈴木氏の父である鈴木邦房宮司の考案によるもの。神社のロゴとしてもホームページや紙袋など至るところで統一イメージとして使われている。押し印と同じく力強い文字が魅力的だ。この文字は鈴木氏と父の2人にしか書けないのだという。このようないくつもの意匠が御朱印愛好家の心を掴んでいるのだが…。
授与品を入れる紙袋にもスサノオノミコトのシルエット画と、社名のロゴが入れられている
「現在の御朱印帳は平成24年から頒布を始めました。当社の御祭神であるスサノオノミコトは古くから厄災を払う、力強い神様として知られています。表紙はそんなスサノオノミコトを身近に感じてもらおうと、シルエットで具現化しています。
裏の絵は島根県石見地方に伝わる“石見神楽”なんです。実はこの石見神楽には、僕なりのこだわりがあるんです。私の母が石見の出身で、子供の頃には毎年、夏休みを石見で過ごしていました。この時期の石見では毎日のようにどこへいっても、上演されていて石見神楽は本当に身近な存在だったんです。スサノオノミコトが八岐の大蛇を退治する勇壮な物語なので、御朱印帳に取り入れました。」
こうして出来た鎮守 氷川神社の御朱印帳は人気が高く、年間で5~600冊ほど出るという。時にはネットオークションに出回ることも。一人で来て授与所で御朱印帳を何冊も欲しがるといったケースもあるとか。
「御朱印帳だけの授与はしていませんし、御朱印を1ページ目に入れてお渡ししているんです。そもそも御朱印はお参りした証ですから、お参りもせずに御朱印帳や御朱印を手にしてもなんの意味もありません。なかには御朱印帳を手に真っ直ぐに授与所にやってくる人もいますが、書くのを待って頂く間にお参りをするよう必ずお声がけしていますね。」
現在、鎮守 氷川神社で頒布している御朱印帳の表装
昨今、とかく問題視される御朱印のスタンプラリー化だが、さりとて鈴木氏は意外にも否定派ではないのだという。
「御朱印や御朱印帳を集めることが、ひとつのきっかけになって神社を知ってもらえるのなら私はスタンプラリーでも構わないと思うんです。神社は企業と違うのでテレビCMを流すような積極的なPRはできません。でも、こうして神社の個性を出すことはできますよね。そして、御朱印をひとつのきっかけとして神社を知り、神様を身近に感じて手をあわせる。それこそが大切なことではないでしょうか。」
神社の個性という意味では、平成28年に頒布を開始する横尾忠則のポスター画を使った御朱印帳ほど鮮烈で見る者に強烈なインパクトを与えるものはないだろう。
デザイナー横尾忠則と鎮守 氷川神社の宮司の縁
神社のホームページ上では「宝物」というページの中で、横尾忠則氏から寄贈された絵を見ることができる。
「父が神道青年全国協議会の副会長をしていた頃、会の設立45周年の対談として著名人をお招きする企画があったんです。そこでお招きした最初の人が横尾さんでした。」
社務所の廊下に飾られているポスター画「スサノオ」(左)と、今回の御朱印帳企画のアートワーク(右)
対談をきっかけに、宮司と親交を深めるなかでインスピレーションを得た横尾忠則氏。鎮守 氷川神社へ御祭神であるスサノオノミコトをモチーフにしたポスター画「スサノオ」「吉兆」などを寄贈している。ただし、これらは通常は公開しておらず、特別な時にだけ一般の参拝者が目にすることができる貴重な絵だ。
現在制作中の新しい御朱印帳。まるで工芸品のような美しい図柄だ
平成28年から頒布を予定している新しい御朱印帳はこのポスター画をデザインに採用した、まさに鎮守 氷川神社の新しい個性を世に放つ1冊だ。
「横尾さんのポスター画に“御朱印帳”や社名などの文字をのせるので、嫌がられるかなと思いながら使用の許諾を求めたのですが…さすが世界の横尾さん、そこは快く許可をいただきました。
ポスター画を忠実に再現するためには通常の折り機ではなく、細かな模様織りができる特殊な折り機を使う必要がありました。そのために生産量が限られてしまっていて、頒布の際には1人1冊など何らかの制限を設ける予定です。」
予定では、平成28年の1月15日のどんど焼き祭を頒布日として準備中だという。
これまで絵を見ることができなかった人にも、新しい御朱印帳は横尾流のスサノオノミコトの世界観を手にとって味わうことができる絶好の機会といっていい。頒布を楽しみに待ちたい。
※平成27年10月29日取材 取材日時点での情報
この御朱印帳はここでもらえます
鎮守 氷川神社
大きさ:16cm×11cm 予定
価格:2,500円予定
朱印代:込
仕様:蛇腹式
埼玉県川口市青木5-18-48
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